■前回のエントリーで書いたリアルサウンド映画部での『ウマ娘 プリティーダービー』Season3のコラムですが、実は勢いでプロットを書いた第5話についてのレビューコラムもあるのです。そっちは掲載とはならなかったのですが、プロットを転用しても良いと許可をもらいましたので、コラムに仕上げてしまいました。商用原稿のつもりだったのであまりくだけていませんが、よろしければ読んでやってください。
■『ウマ娘 プリティーダービー』Season3・第5話/キタサンブラック&ドゥラメンテまさかの敗北…そんな「敗北」から始まる新たな物語
第4話でミホノブルボン&ライスシャワーという先輩達との特訓で、己の持ち味であるタフで頑丈な己の身体に磨きを掛け、親友・サトノダイヤモンドの負けても挫けない強靱なメンタルに元気をもらったキタサンブラック。尊敬するトウカイテイオーも届かなかった日本最長G1レースである天皇賞・春を見事に逃げ切って制覇。
そんな彼女が次に挑むレースは夏のグランプリ・宝塚記念。そしてその前に立ちはだかるのは乗り越えるべきライバル・ドゥラメンテ。怪我から復帰した彼女がやり残したことは出走できなかった菊花賞を制したウマ娘を倒し、最大の目標である凱旋門賞を目指すというものだった。
そんなドゥラメンテは「レースの勝利」にしか興味が無く、菊花賞ウマ娘であるキタサンブラックだけでなく、他のウマ娘もまったく眼中になかった。そのことを目の前で知らされたキタサンブラックは、成長した自分の全てをかけてドゥラメンテを下して宝塚記念を勝とうと闘志を燃やす。だが、そんな二人を待っていたのは思わぬ伏兵によってもたらされた「敗北」だった。
冒頭にはサトノダイヤモンドが日本ダービーに挑むも、ゴール間際での競り合いに負けて僅差2着という結果に。その敗北をもたらしたのはシューズの蹄鉄の落鉄というアクシデント…「サトノのウマ娘はG1で勝てない」というジンクスが彼女だけでなく、同じサトノのウマ娘であるサトノクラウンの心にも暗い影を落とす。
そう、第5話のテーマはウマ娘たちが走る以上は避けては通れない「敗北」だ。
■ベースとなっている2016年の宝塚記念と同じ結果と展開ではあるが、『ウマ娘』においてそれを招いたのはキタサンブラックとドゥラメンテの「強者ゆえの驕り」だ。
自分の勝利は世界最高峰のG1レース・凱旋門賞への過程に過ぎないと語り、共にレースを走るウマ娘など眼中になかったドゥラメンテ。
そしてライバルどころか気にもとめられていなかった憤りから、打倒ドゥラメンテに心を奪われていたキタサンブラックも、やはり他の相手のことは気にもとめていなかった。
誰もが「勝ちたい」と思って走っているウマ娘のレースに「絶対」は無い。Season1でも怪我からのリハビリ中のサイレンススズカにばかり気を取られていたスペシャルウィークは、自分との勝負に全身全霊を込めていたグラスワンダーの執念に気付かずに、奇しくも同じ宝塚記念で敗北を喫した。
特定の相手を意識するあまりにレース自体を意識しなかった、キタサンブラックとドゥラメンテの「慢心」が、二人に敗北という結果をもたらすことになる。
今回キタサンブラックとドゥラメンテを破ったウマ娘・リバーライト。そのモデルとなった競走馬は、2015年にエリザベス女王杯を制するなどコンスタンスに勝利を重ねていた牝馬マリアライトだ。劇中でキタサンブラックが抜かされる際に「誰ー?」と言っていたが、一年上の先輩な上に牝馬がモデルのウマ娘が挑むトリプルティアラ路線を進んでいたウマ娘ゆえに交わる機会がまったくなかったためか。それとも自分に迫ってくるような相手はドゥラメンテだけだろうと確信していたが故か。
クラシックの時期には馬体重が400キロちょいと身体が十分に出来ていなかったマリアライト。それゆえに陣営は無理に牝馬三冠路線へ挑まずに、じっくりと身体を育てる方針を取ったという。その結果、2015年秋には馬体重が430キロまで増えて、その年のエリザベス女王杯を制するという結果を出した。
そしてマリアライトの騎手を務めていたのは、TVアニメ第1期でスペシャルウィークのライバルとして立ちはだかったエルコンドルパサーと共に凱旋門賞に挑み、他のウマ娘になった競走馬ではマンハッタンカフェやナカヤマフェスタにも騎乗した名手・蛯名正義だ。
【宝塚記念】16年のマリアライト 勝因は本番のみにあらず(スポニチアネックス)
この記事によれば、実際のレースではマリアライト&蛯名正義は稍重の馬場状態を考えて、多少のコースロスをしても綺麗な所を走らせて脚を溜めてる作戦でレースを進めている。その結果、最終直線で他の馬が走りあぐねる中で力強い伸びを見せて、本命視されていたキタサンブラックとドゥラメンテを振り切って勝利。馬のコンディションを活かす名手の腕が掴ませた勝利だったのだ。
カンテレ競馬【公式】「祭りでも、怪物でもない、牝馬のマリアライト」【宝塚記念2016】(YouTube)
第5話のレースを見返すと、そんな走りがアニメでもしっかり再現されている。他のウマ娘たちがコース内側で勝負をし、力の入る馬場状態にも拘わらずハイペースの展開で疲弊する中、リバーライトはドゥラメンテの斜め前方でポジションキープしながらレースを展開。後方集団にドゥラメンテを封じ込みながら自分が走りやすいポジションをキープするという作戦だ。
これが功を奏し、リバーライトは絶好の形で第4コーナーから最終直線へ入っている。そのためドゥラメンテは焦りを見せながら加速をかけてしまい、これが最後の脚の故障の再発に繋がってしまう。そして最後の競り合いでも、必死な様子のキタサン&ドゥラメンテと比べて表情に余裕を残しながらリバーライトが伸びて勝利という流れがしっかり描かれている。実力の差は運や戦術で覆せるというウマ娘のレースならではの駆け引きが描かれた勝利だった。
■普通のスポーツアニメなら、主人公の劇的な勝利やライバルに対する敗北で物語を紡いでいく。だが『ウマ娘 プリティーダービー』は、実際の競馬で刻まれたレース結果を遵守するというルールがある(Cygames展での『ウマ娘』コーナーの解説では、プレイヤーが介入できるゲームの場合や、競走馬が悲劇的な結末を迎えた場合の救済の場合はif展開はありうるとしている。Season1でエルコンドルパサーが日本ダービーをスペシャルウィークと同着になったり、サイレンススズカの「沈黙の日曜日」の舞台となった天皇賞・秋を制するといったif展開については、当時存在した外国産馬はクラシック三冠と天皇賞を走れないという制限がウマ娘にはそぐわないためだと思われる)。そのため、今回のような主人公とライバルが伏兵に敗北するというまさかの展開も描かれるのだ。
しかし2022年のG1レースで一番人気の負けが15回も続いたように、まさかの本命敗北展開もある意味競馬の面白さである。そんな競馬における勝負のままならなさと、それゆえの面白さを見せながらも、『ウマ娘』らしいドラマへと昇華してくれたのが今回の第5話だったのではないだろうか。
そしてキタサンブラックとドゥラメンテばかりに目が行きがちだが、実はサウンズオブアース以外の主要キャラのほとんどがレースを走り、そして全員敗北を喫したというのも第5話の隠れたポイントだ。実際の競馬ではこの時の故障でドゥラメンテが引退することとなり、キタサンブラックはその強さを本格開化させてG1レースで勝利を重ねていく。そんなキタサンブラックに数少ない黒星をつけるのがシュヴァルグラン、サトノクラウン、そしてサトノダイヤモンドだ。世代の絶対王者となっていくキタサンブラックを超えるために彼女たちは「キミに勝ちたい」という気持ちをどう爆発させるのか、そしてウマ娘のドゥラメンテはどういう運命を辿るのか? 今後も次回への興味が尽きない展開となりそうだ。