【ブックレビュー】秋本治流のきらら系日常コミック『ファインダー 京都女学院物語』
40年に渡る『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の連載を終えた秋本治が、2017年にスタートさせた4本のオリジナル作品のコミックス化がスタート。そのうちカメラネタということで連載時から興味のあった『ファインダー 京都女学院物語』を購入&読了。何とも不思議な味わいのある作品でした。
■これは秋本治流のきらら系日常コミック?
舞台となるのは京都府亀岡市にある女子高の写真部。戦場カメラマン志望の鬼軍曹のような部長の方針で、デジカメ全盛のこのご時世にフィルムカメラしか使わせてもらえない写真部に所属する4人の女の子の日常を、春夏秋冬それぞれの季節毎に描いた全四話の物語となっているのだけど、改めてまとめて読んでみると、どうにも微妙な違和感を感じるのだ。
劇中のフィルムカメラネタは『こち亀』でも多々あったマニアックネタの流れで面白いのだけど、それがどうもキャラやストーリーと噛み合っていないように思えたのだ。まだ読む側の感覚として「こち亀の秋本治」が抜けていないせいもあるのだとは思うが、他のオリジナル作品ではそういう感じはしなかっただけに、よけいに戸惑いながら何度か読んでみて思い至る……この違和感の原因は、『ファインダー』がきらら系日常もののアプローチで描かれているからなのではと。
「コアなジャンルネタ」と「女の子達の日常」を柱とした作品は、まんがタイムきらら系ではある種の王道として確立しているが、『ファインダー』も正にそういった作りの作品なのだ。新作を始めるにあたっての秋本先生の発言を遡ってみると、位置づけとしては「LOVE要素抜きの少女マンガ」とのことだが、そんなアプローチにフィルムカメラというマニアックなネタを重ねた結果として、偶然にもきらら系日常コミック的なスタイルに辿り着いたということなのだろうか。
『ファインダー』にきらら系のノリを感じるのは、日常ネタだからということだけではなく、それに彩りを添えるコアでマニアックな先輩キャラたちの存在だ。写真部の部長からして「軍事評論家の父を持つ戦場カメラマン志望の女子高生」で、フィルムカメラにこだわる理由も「バッテリーが切れたらシャッターが切れなくなるデジカメでは戦場では役に立たないから機械式シャッターのカメラに限る」という、およそ女子高生らしからぬ濃いキャラクター。
さらに新幹線専門の「撮り鉄」で、中古カメラ店の娘という立場を活かして売れ残りの望遠レンズ(長玉)を多数使いこなすことから「長玉先輩」と呼ばれる先輩キャラもなかなかの濃さ。ポジションとしては『こち亀』にたびたび登場したマニア系サブキャラクター達の女体化ともいえる彼女達だが、そんなアプローチを突き詰めた結果がきらら系作品的なものになるというのは、意外な発見かもしれない。そう考えると『こち亀』自体も「普段はダメダメだけど飛び抜けた取り柄のある主人公」「そんな主人公とつるむ常軌を逸した金持ちキャラ」「ストーリーのベースはそんな彼らの日常の一コマ」と共通項は多いような気が(笑)。
■あまりにもったいない「ネタ」と「物語」の密度のアンバランス
読む側の意識として『こち亀』のイメージを払拭するのはなかなか難しいので、きらら系作品のつもりで『ファインダー』を改めて読んでみると、今度は作品自体が持つ構造的な問題に気付いてしまう。この作品はネタやサブキャラなどが濃い分、話そのものがかなり薄いのだ。
最初に書いたように四季それぞれの季節をベースにした40数ページずつの4エピソードで構成されているのだが、1話で1つの季節という縛りのためか(最終回となる「春」は、主人公達が三年生になって卒業するまでが描かれるので一年間が一気に描かれる)えらい駆け足で数多くのエピソードがどんどん消化されてしまっている。よくきらら系日常作品は「何もない日常を描いているので話が薄い」と揶揄されることが多いが、実は短いページ数(4コマなら8ページ)に日常の一日などを凝縮しているので、エピソードとしては普通のマンガ以上に濃くなることも多い。逆に『ファインダー』の場合は、普通の日常系作品なら余裕で一話分に膨らませられそうなネタ(部長や長玉先輩、さらに京都ならではの四季折々の風景や、カメラネタならではのエピソードである「雪の金閣寺」など)を惜しげも無くどんどん消費してしまっているせいで、各話の印象が薄く散漫になってしまっているのだ。
コミックス一冊でまとめるという大前提があったのかも知れないが、そのような形でコンパクトにまとめて終わらせるには、『ファインダー』が描こうとしたものはネタ的に濃すぎたような気がする。コミックス一冊毎に1つの季節を描き、『こち亀』のように10数ページにキャラクターや1つのネタを凝縮していくというスタイルの方が、フィルムカメラネタや「LOVE要素抜きの少女マンガ」という製作意図を活かせたのではないだろうか。
写真・カメラ好きには面白い部分もたくさんあったし、舞台の亀岡が丹念に描かれているので聖地系作品としての要素も備えているので、何というか「惜しい」作品だった『ファインダー』。もしふただびこの路線に秋本先生が挑まれるなら、もっとがっつりと濃くて凝縮された「日常」を描かれることを期待します。
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