「走り」から「生き様」へと変わる『湾岸ミッドナイト』の系譜
■『湾岸ミッドナイト』シリーズはオリジナルシリーズと『C1ランナー』双方を愛読していたが、それだけに『C1ランナー』完結後にビッグコミックスピリッツで「『湾岸ミッドナイト』最終章」と題されて『銀灰のスピードスター』が始まった時には、正直違和感があった。すぴりスピリッツの大幅なテコ入れともいうべき新連載大量投入のひとつだったこともあり、スピリッツが『湾岸ミッドナイト』人気にすり寄ったのかなというネガティブなイメージもあったし、「走り」へのこだわりが描かれていたオリジナル&C1に比べて展開も地味でしんみりした内容。それゆえにあまりのめりこめず、いつの間にか連載が終わっていたので「やはりスピリッツと『湾岸』は相性が悪いんだろうか」と思ったまま、いつしか『銀灰のスピードスター』は自分の記憶から消えていたのでした。
■そして年が明けてから発売された『首都高SPL』のコミックスを購入。自分の生き様に行き詰まりを感じていた壮年のGT-Rチューナー・工藤が、首都高を駆ける銀灰の空冷ポルシェとの出会いをきっかけに、再び情熱を甦らせていくというストーリーが自分のツボにはまったこともあり、常に手の届くところに置いてヒマな時に読み込む一冊となった。そんな『首都高SPL』には、『銀灰のスピードスター』の主人公・元木と元彼女の美和、そして元木とつるむベテランチューナー・後藤らが主要キャラとして登場し、工藤の物語に様々な形で絡んでくる。そうなってくると、連載時にはあまり興味を持てなかった彼らのストーリーである『銀灰』に興味がわいてきたので、改めて全2巻のコミックスを遡って購入。そして改めて読み返すと連載時とはまったく印象の違う物語として読む事ができたのだ。
■『湾岸ミッドナイト』シリーズを振り返ってみると、走りに囚われた者達の物語としてのオリジナルシリーズから、チューニング雑誌復活にまつわる「仕事論」を軸にした『C1ランナー』と、車をテーマとしながらも「走り」から「生き様」へと物語をシフトさせてきていた。その流れで捉えると『銀灰のスピードスター』は一気に「生き様」へとシフトした作品だといえる。憧れの先輩メカニック・吉村の下で日々の仕事に追われる若きメカニック・元木だったが、吉村の事故死によって寄るべき存在をなくしてしまう。そんな彼が、吉村の残したポルシェ3.6ターボを仕上げることを切っ掛けにして、様々な「大人」達と関わることで自分の生き方を見出していくというの青春譚が『銀灰のスピードスター』の物語だ。ただ首都高を走るだけだった走り屋のノブが、彼を放っておけない大人達と関わることで「走り」と「生き様」の双方で成長していく過程を描いた『C1ランナー』とは、走り屋とメカニック、車の作り手と雑誌の作り手というアプローチこそ違えど、同じ方向を目指した物語だったのだ。
■そうした流れの中で描かれる最新作『首都高SPL』は、『銀灰のスピードスター』の続編ではありながら視点は異なっている。『C1ランナー』で大人達がノブにかつての若き日の自分を重ねて自らの活力にしていったが、主人公はあくまで若きノブだった。だが『首都高SPL』は、そんな若さに惹かれ活力をもらう大人の側を主人公に据えた逆転の物語となっている。そして若きメカニック・元木は工藤に憧れの先輩だった吉村の姿を重ね、『銀灰』で34Rの車としてのポテンシャルに感嘆させられたことが伏線となり、工藤のチューニングした34Rにも興味を抱くなど、両作品は表裏一体の作品となっているのに気付かされる。
『首都高SPL』『銀灰のスピードスター』を作者は『湾岸ミッドナイト』シリーズの最終章と語っているが、むしろ読んだ思わされるのは「最終章」ではなく「新章」ではないかということだ。もし自分のように『銀灰のスピードスター』に乗り切れなかったという人がいたら、まったく新しいシリーズとして読んでみるか、『首都高SPL』から入って、その前日譚として『銀灰のスピードスター』を読んでみるという段階を踏むのがいいかもしれない。車にはあまり興味が無くても「人生の物語」を読んでみたいという人には、こちらの方が面白いのではないだろうか。
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