福岡旅行記・二日目 『田島照久の全仕事展』見学記録
■旅の疲れで即日アップといかず遅れてしまいましたが、4月6日の福岡旅行二日目の記録を色々と。
夜は地方旅行の楽しみである地方ローカルTV番組をチェックしてから床に就き、朝はホテルの朝食ビュッフェ。この日は糸島市産の野菜などを使った惣菜を集めた「糸島フェア」期間中だったので、野菜中心の和食献立に。味が濃くてしっかりした野菜は凄く美味で、昨夜がこってりメニューばかりで疲れた胃袋にはすごくありがたかったです。
■午前10時過ぎにタカクラホテル福岡をチェックアウトし、西鉄バスでJR博多駅へ。11時ちょうどの九州新幹線で、今日の目的地・筑後船小屋へ向かうつもりだったけど、コインロッカーを探すのに手間取ってしまい間に合わず。仕方無いので次の新幹線でと思ったら、筑後船小屋に止まる新幹線は昼間だと一時間に一本程度。仕方ないので、快速電車で45分程かけて移動することに。
これはたまたまホームに入ってきた特急。噂には聞いていたけど、JR九州の車輌は凝ったデザインの物が多いなと。鉄オタじゃない自分でも、乗ったり写真撮ったりしたいと思わされるものばかりで、次に福岡を旅行する機会があれば電車ウォッチに時間を割きたいかも。
■のんびりと電車移動を楽しみながら、12時過ぎに筑後船小屋駅に到着。
清々しいまでに何もねえ(^_^;)
福岡ダイエーホークスの二軍本拠地と、今回の目的地である九州芸文館以外には、これといったお店や施設が見当たらず。でも、駅から歩いて一分もかからないところに九州芸文館があるのはありがたい。
しかし、この九州芸文館という施設。いかにもモダンな人工建造物なのに、シンプルでエッジの効いたデザイン&素材の風合いを活かした内装/外装の組み合わせのおかげで、周囲の自然とのマッチングが絶妙。中に入って展示を楽しむだけでなく、当て所も無く周りを散歩したりするだけでも気持ちいい空間となっていました。
そして「田島照久の全仕事展」に入場。展示スペース内は当然の如く撮影禁止なので写真はこれぐらいで。
田島照久氏のグラフィックデザインの魅力は、素材の良さを引き出すビジュアル素材の扱い方、デジタル素材とアナログ素材のシームレスな融合、そしてそれらに組み合わせるタイポグラフィの使い方の絶妙さが組み合わさることで生まれる、「凛とした美しさ」だと思っている。そんなグラフィックデザインの数々と、前述した九州芸文館という施設自体のデザイン的な魅力が見事にマッチして、まるで会場そのものが田島氏の作品のような様相を見せていたのが印象的だった。ただ展示するだけでなく、田島照久氏の世界そのものに飲み込まれるような感覚を味わえる展示は、この会場だからこそ可能だったのかもしれない。
個人的に印象深かった展示は、やはり尾崎豊関連の展示だ。尾崎豊が世の注目を集め始めた頃、それを高校生自体にリアルタイムで味わった身としては、今でも彼の歌や存在は自分を形作っている大事なパーツの一つだ。そんな尾崎豊の魅力をビジュアルで伝えてくれた数々の写真やジャケットワークの数々が、田島照久氏の仕事だとは当時は知るよしも無かったのだが、とにかく突き刺さるようなかっこよさに見せられたことは覚えている。図録の中で田島氏は尾崎豊についてこう語っていた。
「ぼくはロックアーティストとしての尾崎豊をどう撮れば、その希有な魅力が伝わるのだろうかと考えながら、落ち着きのない足取りで園内を歩いていた。普通に撮れば、いい写真が撮れることは分かっていた。いや、むしろ、その何もしないでもかっこいい写真が撮れてしまうことこそが問題だったのだ。」
そんな風に試行錯誤しながら田島氏が作りあげた尾崎豊のビジュアルの数々は、見る者の視線を捉えて離さない尾崎の存在感を凝縮したような作品となっていた。そんな作品群が一同に集められた会場内の尾崎豊フロアは、どこに居ても尾崎からの視線を受けているような独特の緊張感に満ちていて、自分が尾崎と出会った高校生の頃に引き戻されたような錯覚すら覚えるほどでした。
もうひとつ驚くべき事は、近年に発表された尾崎豊没後のものをのぞけば、すべてがアナログワーク主体で作りあげられた作品だという事。会場には手描きのラフに書体指定やタイポグラフのコピーが貼り付けられたデザイン指定紙なども展示されていて、これらの作品がPhotoshopもIllustratorも無い時代に創り上げられた、田島氏の職人芸の結晶だということを改めて実感させられた。こうしたアナログ時代の技術の蓄積が、現在の田島氏が手がけるデザインのクオリティを生み出しているのだろうと。
同じフロアには浜田省吾関連のデザインワークもまとめられていた。こちらは尾崎豊関連の緊張感とは対照的に、熟練の技とでもいうべきおおらかさが感じられた。本人の魅力をいかに深く引き出すかに腐心したように感じる尾崎豊のデザインワークに対し、浜田省吾関連は歌と本人が醸し出す「世界観」を表現しようと様々な試みを楽しんでいるかのように思えた。二人に関するデザインワークを同じフロアで併設することで、田島氏のアーティスト関連デザインワークの過去と現在の違いや、アーティストに対するアプローチの差を浮かび上がらせる目的があったのではないだろうか。
■もう一つのフロアには、ガンプラや海洋堂の恐竜フィギュアを使って製作されたデジタルフォト作品や、『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』などのアニメ作品関連のデザインワークがまとめられていた。圧巻だったのは、劇中設定におけるほぼ実物大とおぼしきサイズで壁一面に展示された『Gundam Photography』収録のガンダムMk-Ⅱ・ティターンズ仕様(リンク先は田島照久氏公式サイトの該当作品です)。プラモデルを撮影して素材としたとは、言われないとわからないレベルの濃密なレタッチと、それを超大判に引き延ばしてもまったく破綻していないビジュアルの高密度ぶりには溜息しか出ず……この企画の元となった、田島氏が手がけた北米版ガンプラのパッケージも見てみたいものですが、どこかで取り上げたりしていないのだろうか……。海洋堂恐竜フィギュアを使って、恐竜が居る現実の風景を造り出した『DINOPIX』にしても、まだレイヤー機能などが実装されていないPhotoshop1.0で写真の合成などをおこなって仕上げられたというのだから、本当に言葉が出ない。陳腐な言い方だけど、こういった職人芸とでも例えるべき丹念な作業が、田島照久氏のデザインの魅力の源泉なのだろう。
■展示自体は、じっくり見て回っても1時間半ほどですべてを堪能できる、思ったよりも小規模な特別展ではあった。でも、その濃密な作品と空間にたっぷりと浸れたのだから大満足。飛行機を使って見に来たかいはありました。何よりも、この特別展が無かったら九州に足を運ぶ機会は一生無かったのかもしれないので、その機会を与えてくれたことも感謝したいです。今週日曜日の4月17日にはトークイベントもあるようなので、足を運べる方はぜひ行ってみてほしいです。
■長くなったので、福岡旅行記のシメは次のエントリーにて(^_^;)。
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