『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』を読んで
■ここ数年、様々なアニメ/マンガ/ゲームを語ったり評論したりする書籍や同人誌が色々と出ているが、作品を語るのにのやれ哲学だ現代思想だとアカデミズムを持ち込む、東浩紀をこじらせたみたいなタイプの本がやたらと多くて辟易とさせられる。読んでいて「アニメや漫画や美少女ゲームをこんなに知的に読み解く俺様って頭良くてカッコイイ!」みたいな筆者の自己主張の方が前に出すぎで、肝心の作品語りがかすんでしまうばかりか、作品の意図とはかけ離れた読み解きによる明後日の方向の結論へと着地するようなものも少なくない。ここまでくるともはやトンデモ本の領域である。
■やっぱり作品評論というのは、その作品自体やジャンルの枠内に足をおいた状態で語られるのが基本だし、他ジャンルや学問分野などからの読み解きは作り手側がそれを明らかに作品作りに用いている場合にのみ行われるものだろう。そんな地に足のついたスタンスで書き綴られたのが、先日発売された『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』だ。私自身もオタク大賞などでお世話になっている藤津亮太氏が、2004年11月から今年5月にかけてニュータイプ~アニメージュで連載したアニメ時評をまとめたもので、その折々のアニメ界隈の注目作やトレンドを振り返るのはもちろん、今現在に至るまでにアニメを取り巻く状況はいかに変わったのか(あるいは変わっていないのか)を学び考えるのに最適な一冊だ。
■自分が読んでみて心に留まった部分をいくつかピックアップしてみると、2006年5月「アニメは「絵」である」。当時ノイタミナで放映された『化猫』が話題となったことをを例に、アニメの動きによる表現が普遍化したことで失った「驚き」を、「絵」としての表現を突き詰めることで取り戻す試みについて語っている。これはファンも「なんでこんなに売れたんだろう?」と首を捻っていた昨年の『化物語』大ヒットをはじめとするシャフト/新房昭之作品の躍進にそのまま当てはめることができる。
2007年6月「つくり手と受け手、そして「内なる受け手」」では、『天元突破グレンラガン』第4話を巡る騒動から作り手と受け手の理想的な関係性について語っているが、それがいかに難しいかを証明するかのように『アイドルマスター2』を巡る作り手と受け手のすれ違いによる騒動が今なお継続中だ。
2008年2月「TVアニメ、その現状と未来を考える」で示された「TVアニメの終わりの始まり」は今なお継続中。萌え系アニメを中心に見られる「放映版は修正だらけ=DVD買ってね」的な手法はより過激さを増し、TVアニメ最後のフロンティアであるU局を自らの手で潰そうとしているかのような現状で、事態はますます悪化している気さえする(これに関しては2009年11月「『NEEDLESS』が持つ普通の「おもしろさ」」でも言及されている)。
2008年10月「<正しくつまらない>ことの正しさ」は、字面だけだとネガティブに捉えられかねない「正しくつまらない」を「わかりやすい大衆娯楽の王道」という図式で捉えて『コードギアスR2』のヒットを読み解いている。当時小学3年生の姪が、日曜日の午後は『コードギアスR2』を見るために家にとんぼ返りしていたのを「あれって小学生がハマるものか?」と不思議に思っていたのだが、この項を読んで納得がいったw。
開かれた旧家の大広間とセキュリティで固められた電脳空間の対比で『サマーウォーズ』を語った2009年8月「解錠というアクションが描かれる」は、本文中では言及されていないがカズマを取り巻く状況(開かれた旧家の中でも狭い書庫に籠もりOZへと繋がっていたカズマも、健二によって広間へと連れ出されている)にも当てはまるなあと思ったり。
『なのは』『ハルヒ』の劇場版をネタにアニメ映画の定義の変化に言及した2010年3月「見せ尽くすことが招く<映画>の変質」は、今後に控える劇場版『けいおん!』の形を想像するひとつの手がかりとなるかも。そして、ちょっと前までは漫画原作のアニメ化が作り手側からえらく低く見られていた(私の体験した事例では、事前の打ち合わせで監督から「ところでこの漫画はどこが面白いんですか?」という信じがたい質問がきたことがあった)よなあという感慨を抱いたのが2010年4月「オリジナル企画の立っている難所」。いまオリジナルTVアニメを作ることがどれだけ難しい状況かを理解するのに役立つオススメの一文。
最後を〆る2010年5月「アニメ時評について」は、自分のアニメを見る・語ることの姿勢を見直してみる指針となるものだと思う。むしろこの本自体がその役割を果たしていると読破してみて思った。これはある意味、プロアマ問わず作品を語りたい人なら身につけておくべきマナー指南と言えるかも。みんなが難しく考えすぎる……アニメはこんなにも単純なのに!(C)劇場版00
■上で挙げた以外にも、興味深いパートは多々あるし、一回分3ページと適量にまとめられているので、テンポ良く読み進められるのも魅力だ。上に書いた通り、取り上げている作品は過去のものでも今のアニメを読み解き楽しむためのヒントも多数含まれている。読めば必ず自身のアニメの見方に新たな切り口を与えてくれる一冊なので、アニメファンなら迷わず手に取るべき一冊だ。
■やっぱり作品評論というのは、その作品自体やジャンルの枠内に足をおいた状態で語られるのが基本だし、他ジャンルや学問分野などからの読み解きは作り手側がそれを明らかに作品作りに用いている場合にのみ行われるものだろう。そんな地に足のついたスタンスで書き綴られたのが、先日発売された『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』だ。私自身もオタク大賞などでお世話になっている藤津亮太氏が、2004年11月から今年5月にかけてニュータイプ~アニメージュで連載したアニメ時評をまとめたもので、その折々のアニメ界隈の注目作やトレンドを振り返るのはもちろん、今現在に至るまでにアニメを取り巻く状況はいかに変わったのか(あるいは変わっていないのか)を学び考えるのに最適な一冊だ。
■自分が読んでみて心に留まった部分をいくつかピックアップしてみると、2006年5月「アニメは「絵」である」。当時ノイタミナで放映された『化猫』が話題となったことをを例に、アニメの動きによる表現が普遍化したことで失った「驚き」を、「絵」としての表現を突き詰めることで取り戻す試みについて語っている。これはファンも「なんでこんなに売れたんだろう?」と首を捻っていた昨年の『化物語』大ヒットをはじめとするシャフト/新房昭之作品の躍進にそのまま当てはめることができる。
2007年6月「つくり手と受け手、そして「内なる受け手」」では、『天元突破グレンラガン』第4話を巡る騒動から作り手と受け手の理想的な関係性について語っているが、それがいかに難しいかを証明するかのように『アイドルマスター2』を巡る作り手と受け手のすれ違いによる騒動が今なお継続中だ。
2008年2月「TVアニメ、その現状と未来を考える」で示された「TVアニメの終わりの始まり」は今なお継続中。萌え系アニメを中心に見られる「放映版は修正だらけ=DVD買ってね」的な手法はより過激さを増し、TVアニメ最後のフロンティアであるU局を自らの手で潰そうとしているかのような現状で、事態はますます悪化している気さえする(これに関しては2009年11月「『NEEDLESS』が持つ普通の「おもしろさ」」でも言及されている)。
2008年10月「<正しくつまらない>ことの正しさ」は、字面だけだとネガティブに捉えられかねない「正しくつまらない」を「わかりやすい大衆娯楽の王道」という図式で捉えて『コードギアスR2』のヒットを読み解いている。当時小学3年生の姪が、日曜日の午後は『コードギアスR2』を見るために家にとんぼ返りしていたのを「あれって小学生がハマるものか?」と不思議に思っていたのだが、この項を読んで納得がいったw。
開かれた旧家の大広間とセキュリティで固められた電脳空間の対比で『サマーウォーズ』を語った2009年8月「解錠というアクションが描かれる」は、本文中では言及されていないがカズマを取り巻く状況(開かれた旧家の中でも狭い書庫に籠もりOZへと繋がっていたカズマも、健二によって広間へと連れ出されている)にも当てはまるなあと思ったり。
『なのは』『ハルヒ』の劇場版をネタにアニメ映画の定義の変化に言及した2010年3月「見せ尽くすことが招く<映画>の変質」は、今後に控える劇場版『けいおん!』の形を想像するひとつの手がかりとなるかも。そして、ちょっと前までは漫画原作のアニメ化が作り手側からえらく低く見られていた(私の体験した事例では、事前の打ち合わせで監督から「ところでこの漫画はどこが面白いんですか?」という信じがたい質問がきたことがあった)よなあという感慨を抱いたのが2010年4月「オリジナル企画の立っている難所」。いまオリジナルTVアニメを作ることがどれだけ難しい状況かを理解するのに役立つオススメの一文。
最後を〆る2010年5月「アニメ時評について」は、自分のアニメを見る・語ることの姿勢を見直してみる指針となるものだと思う。むしろこの本自体がその役割を果たしていると読破してみて思った。これはある意味、プロアマ問わず作品を語りたい人なら身につけておくべきマナー指南と言えるかも。みんなが難しく考えすぎる……アニメはこんなにも単純なのに!(C)劇場版00
■上で挙げた以外にも、興味深いパートは多々あるし、一回分3ページと適量にまとめられているので、テンポ良く読み進められるのも魅力だ。上に書いた通り、取り上げている作品は過去のものでも今のアニメを読み解き楽しむためのヒントも多数含まれている。読めば必ず自身のアニメの見方に新たな切り口を与えてくれる一冊なので、アニメファンなら迷わず手に取るべき一冊だ。