『けいおん!』原作最終回にみる、作り手の視点の違いの面白さ
■昨日発売のまんがタイムきらら10月号で、『けいおん!』が見事に大団円……というか、これだけのムーブメントを起こした作品の割にはあっさり終わりすぎというか。ラストが気になって、普段なら手を出さない早売りに手を出して発売二日前に最終回ショックを受けたというのに「ああ、もっとこの作品の空気を味わっていたかったなあ……」という寂しさが未だにぬぐえないというか。来週のアニメ最終回と番外編2回、さらに月末の原作コミック最終巻発売で、延々虚脱感と寂寥感を味わい続ける事になるかと思うと、いったいどうしたものやら(;´Д`)
■で、アニメより一足先の原作最終回……律ちゃん隊員派の自分ですら、梓に転びそうになる展開にはマジで涙が出そうになったのですが、ここでちょっと面白いなと思ったのが、原作とアニメでのキャラクターが「泣く」ポイントの違い。
実質的に『けいおん!!』最終回じゃないかというぐらいに泣けて盛り上がった第20話。ライブ後の放心状態の中、だんだんと「これが軽音部としての最後のライブ」ということがこみ上げてきて、三年生組が全員泣きじゃくるというもらい泣き必至のシーンがあったんですが、原作ではここらへんの描写はなく全員が疲れて気持ちよさそうに眠りこけている姿が描かれて終わっている。まあ普通にアニメサイドからの4コマでは描ききれなかった部分の補完ではあったのだろうけど、原作最終回を読んだ後だとまた印象が変わってきたんです。
■原作最終回では卒業式後の最後のティータイムが描かれているのだけど、ここでは梓以外は誰も泣かないんですよね(澪だけが学校を出てから我慢の限界が来て泣くけど、唯やムギのポジティブさにつられてすぐ立ち直る)。泣きじゃくる梓を唯がそっと抱きしめて慰めたり、梓のために作った曲で最後のライブをやったり、部長になる梓に律が檄を飛ばしたり……しっかりと先輩してるというか、いい感じの成長ぶりを見せながら四人で迎える未知の大学生活に思いを馳せるという強さやたくましさを見せて最終回をシメてるんですよね。
同じきららで夏前に大団円を迎えた傑作『ふおんコネクト!』でも、卒業後もみんなと一緒にいたいと望む主人公・交流が、色々と手を回してみんなの望みを叶えつつ付属大学に進学できる手はずを整えるも、みんなはそれぞれの道を選ぶという展開があったのだけど、そこで語られていたのは「離ればなれになる寂しさはあるけど、新たな世界へのわくわく感がそれを上回ってる」というキャラクター達の気持ち。比べてしまうと同じ大学へ進む事を選んだ唯たちが温いように思えるけど、そこは未来の目標がある程度固まっている『ふおんコネクト!』の面々と、まだ探している途中の唯たちという違いなのでそこはあまり気にしなくてもいい。注目したいのは、どちらの女の子たちも寂しさや不安を「新たな世界への期待感」で押しつぶしてしまう強さがキャラのベースにあるということ。萌え4コマというジャンル自体が女性主体の世界だからという面もあるだろうけど、男が思っている以上に女の子たちは強くてたくましいのだ。
■以前に出した『けいおん!』同人誌や夏コミ新刊、とある方との話にも出たのだけど、原作とアニメの『けいおん!』の差は「原作:男性視点」「アニメ:女性視点」という部分にあるのではないかと。そこらへんの違いは律と澪の関係性(百合というか疑似恋愛?)の描写などに出ることが多い気がしていたのだけど、「卒業」という終着点がスタート当初からはっきり見えていた『けいおん!!』においては、そこに至るまでの女性監督&脚本ならではの繊細な描写や伏線が織り込まれて、観ているこちらは否応なく「作品の終焉」という「死の匂い」を意識させられ続けることになった。原作エピソードがまだ残っているにもかかわらず、学園祭から一気に卒業までを24話までで描いてしまおうという構成も、BD/DVDの収録話数の都合(本編は全8巻に収めて、ラストの9巻は未放映新作込みのオール番外編にまとめる)以上にラストへ向けての流れを重視したものだったのだと思う。
一方で原作は、あまり感傷的になりすぎることもなく、受験に向けての日々をマイペースに楽しみながら過ごし、見事に合格を決めて、かわいい後輩を気遣いながら明るく笑って卒業していった。そこにはアニメのような死の匂いはなく、「私たちは登り始めたばかりだからな、この長いけいおん坂をよ!」的なポジティブさすら感じさせられた。原作好きなファンの間で「梓編や大学編があるんじゃないか?」と思わせてしまうのも、願望だけでなく終わった感が希薄な明るさゆえだろう。
このノリの差こそ、前述した「男性視点」「女性視点」の違いではないだろうか。キャラクターが作者にとってある意味「自分の娘」である原作は、子ども達の旅立ちを見守る父親の心情で描かれ、女性監督や脚本家のフィルターを通して描かれたアニメは、同性ゆえに「かつての自分たちの思い出」が加わって、いささかやりすぎなほど繊細でメロウな卒業(終わり)の物語として描かれている気がする。最初に書いた第20話でのライブ後の号泣にしても女性視点で描かれたアニメの唯たちだからこそのもので、原作の唯たちは笑って喜び合って、澪だけが少し泣くのをみんなで慰めて、最後は緊張の糸が切れて眠りこけてしまったんじゃないかという気がする。どちらが正解というわけではなく、どちらも正解なのだ。
■そんなわけで、来週放映の『けいおん!!』最終回は、はたしてどんなラストを迎えるのか寂しく思いつつも興味はつきない。はたして唯たちは泣くだろうか笑って旅立つだろうか……確実に梓は泣くだろうけど。
■余談になるけど原作最終回で思ったことをいくつか。
梓が軽音部入部を伝えに来た憂と純に対して「確保-!」とやったシーンに、梓が他の先輩とはまた違った形で律のことも慕っていたんだなとうれしくなったり。色々な言動を見るに、梓と律が一番ノーマルな部活の先輩・後輩の関係だったのかなと。
色々と話題になってる「唯が一人暮らしをはじめる」件。確かにアニメの唯だと一人暮らし自体が死亡フラグのような気がするけどw、なんだかんだでたくましい原作の唯だったら、割ときちんと一人暮らしをこなしてしまうんじゃないかという気も。あと、これは穿った見方だけど、これ自体が新作連載の伏線だったりする可能性はないだろうかと。一人暮らしの大学新入生が主人公で、となりの部屋の住人&その友達として唯たちがサブキャラとして絡んでくるとかだったら、ある意味続編とかよりもいい形でその後の『けいおん!』が楽しめていいんじゃないかと。
まあ、どっちにしてもこれで完全に終わりとは思えないんですよね……きららMAXの『けいおん!』アンソロジー連載がまだ続いているってことは、アンソロ第4巻を出す気だってことだろうし。最終巻か次号の掛け替えカバー付録付ききららで、何らかの発表があったりするといいなあ……。
『ふおんコネクト!』は未読の人にはマジでオススメ。夏コミの新刊でも書いたけど、『けいおん!』がきっかけで読み始めた萌え4コマの認識を、根本から覆してくれた読み応えのある快作ですので。
■『けいおん!』や萌え4コマの傑作・秀作について語りまくった夏コミ新刊『三十路オタクのための萌え4コマ入門』がCOMIC ZINにて委託販売&通販中! こちらもぜひよろしくお願いします。
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