「著作権法改定で同人誌がピンチ」と言う前に考えるべきは、現在の二次創作系同人誌の「立ち位置」
竹熊健太郎氏のブログのエントリーが引き金となって、現在あちこちで著作権法改定……著作権侵害を非親告罪化(従来は著作権者の訴えがないとダメだったが、そうでなくても摘発を可能にする)に関する論議が交わされている。この改定の主旨は組織的な海賊版ビジネスの摘発のためとされているが、ネットでは「一度法改正されたら拡大解釈の危険性があり、コミケで同人誌などが摘発されてサブカルチャーが壊滅的打撃を受ける」というのが定説になりつつある。だが、実際にそうなることはありうるのだろうか?
●コミケに警察がやってきてサークルを摘発する?
過去の脅迫事件などもあり、すでに警察による会場内巡回がなされている現状を考えれば、警察サイドもコミケがいかなるものかを認識していると考えて間違いない。ならば、十万人単位の参加者が全国から集まり、周辺への経済効果も絶大となったコミケを、イベント当日にいたずらに混乱に陥れるリスクがどれほどのものかも理解しているだろう。疑わしいものをチェックして、後日摘発というパターンはあるかも知れないが、少なくとも会場で問答無用に逮捕という可能性は考えにくい。
そして、今回の改定の推進役とも言える知的財産戦略本部には、角川ホールディングスのCEO・角川歴彦氏が参加している。『宇宙戦艦ヤマト』ブームの際には、そのファンダム方面での盛り上がりにいち早く注目し、角川メディアオフィスでは現在のオタク系ムーブメントの素地となる出版企画を多数推進した氏は、同人誌の特殊な立ち位置に関しても理解は深い。流れが同人誌などのファン活動に不利な流れになりそうな時には、歯止め役となってくれるはずだ。
他にも色々と思うところはあるが、現実的な運用を考えた場合「同人誌を根こそぎ摘発」となる可能性は考えにくい。少なくとも「ファン活動としての同人誌」や、アニメ・マンガやバラエティ番組でのパロディ表現が死に絶えるということはないだろう(警察もそこまでヒマではない)。
●変質した「二次創作系エロ同人誌」の立ち位置
わざわざ「ファン活動しての同人誌」とくくったのにはわけがある。もし今回の改定が同人誌に対して影響を及ぼすとすれば、その対象になるのは前記のような一般向けファンジンではなく、派手にショップ売りをしている二次創作系エロ同人誌だろうからだ。
そもそも二次創作系同人誌は、それ自体が著作権者サイドの黙認で成り立っているグレーゾーンの存在。さらにエロが加わわれば、著作権侵害×猥褻図画の合わせ技で一気にレッドゾーンへ到達するもの。『ときめきメモリアル』同人ビデオや、『ポケットモンスター』やおい同人誌といった実例もあるように、著作権者がその気になればいつ摘発されてもおかしくない存在なのだ。
それでも大部分が黙認されていたのは、即売会でしか頒布されない「ファン活動の一環」「一過性の頒布物」という面があったゆえだ。それならばオリジナルの作品に対する悪影響なども少ないし、新たなファン層開拓にもつながる一面があるからだ。だが、現在は『とらのあな』『メロンブックス』『まんだらけ』といった同人誌ショップが主要都市に展開したことで、同人誌は恒常的かつ大規模に流通するものへと変質してしまった。こうなってしまうと黙認の前提だった「ファン活動の一環」「一過性の頒布物」といった条件は崩れ去り、すでに著作権ビジネス的にも看破できない市場となっている。『ドラえもん』最終回同人誌が問題になったのも、オリジナルに意図的に近づけた絵柄と装丁で、一万部という商業単行本クラス(出版不況といわれる現在ではマイナー系コミックではこれ以下の部数も珍しくない)の部数をショップに流した点だし、脱税で摘発された『テニスの王子様』メインの有名同人作家が億単位の売り上げを稼いでいたことを考えれば、すでに同人誌の世界は「アマチュアの表現の場」と「新たな形の商業出版市場」に二極化してしまっているのだ(ここらへんの線引きを考えて同人活動をしている大手サークルやプロ作家の場合、ショップ委託をしないor委託する同人誌のセレクトに気を遣うなどしている)。
自由な同人誌の世界はこれからも続いてほしいし、守らなければいけないとは思う。でも、「アマチュアの表現の場」「ファン活動の一環」としての同人誌とは別の、巨大な「未許可版権ビジネス」と化した同人誌は区別して考えないといけない。後者の現状も踏まえないまま、前者の理念を振りかざしてこの改定を批判しても、議論は歪んだものとなって何も実を結ばずに終わってしまう気がする。
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